【コロナ対策】インドネシアの教育格差をなくすためのオンライン学習とテレビ学習

コロナウィルスの影響を受け、日本と同様にインドネシアでも学校が休校となり、児童や生徒たちに向けてオンライン学習が実施されています。ただ、インドネシアが日本と違う点は、オンライン学習ができない、インターネット環境が整っていない地域の児童や学生たちの自宅学習に向けた対策も取られています。

インドネシア教育文化省の主導でテレビを使って「教育番組」をインドネシア全土に放送し、地域格差が教育や学習レベルの格差につながらないように対策がとられているのです。

今回は、インドネシア政府のコロナ対策の一環でもある、このコロナウィルスによる休校中の児童や生徒の自宅学習に対するインドネシア政府・教育文化省の取り組みの概要と、その中の一つであるテレビを使った教育番組放送について詳しくお伝えします。コロナで休校中の児童生徒たちに対してインドネシア政府はどのように手を打っているのかを説明します。

このほかにもインドネシア政府教育文化省の日本留学支援についてのインタビュー記事もあります。
→ インドネシア教育文化省サンティ教職員育成局長インタビュー【日本留学支援について】
→ インドネシア教育文化省プラタマ氏インタビュー2【日本留学は今後増える】
→ インドネシア教育文化省ブディ氏インタビュー3【日本留学希望学生の質問】
→ インドネシア教育文化省ブディ氏インタビュー4【日本留学は今後増える】
→ 日本留学について~インドネシア教育文化省インタビュー5【人事部アンディ氏】

インドネシアの教育事情

インドネシアは南北1,888km、東西5,110㎞に大小合わせて約17,000の島々からなる国です。インドネシアの幼小中高等学校の児童生徒数は約5000万人、大学などの高等教育機関に通う学生は約750万人います。日本の児童数・学生数の約180万人の約30倍にもなります。

【インドネシアと日本の在学者数・教員数比較表】

区分 インドネシア 日本
幼小中高 児童生徒数 50,034,518 1,365,453
高等教育機関 大学生数 7,500,000 572,378
幼小中高 教員数 3,027,422 1,168,718

[出典:IKHTISAR DATA PENDIDIKAN & KEBUDAYAAN 2017/2018 インドネシア教育文化省、文部科学省統計要覧(平成30年度版)]

国のインフラのデジタル化が発展途上にあるインドネシアでは、首都ジャカルタのような大都市では光回線が整備されつつあるものの、地方都市や中心地から離れた地域では携帯電話の基地局整備ですら不十分なところがたくさん存在します。

携帯の電波が届かないためにスマホを持って20分かけて丘の頂上までいってやっと電波が拾えるといった地域や、経済的理由からスマホやパソコンなどのデジタルツールを誰一人として持たない村などもあったりします。また、通学困難な地域では、小学校へ片道1時間以上かかったり、児童生徒が学校に通うのではなく、教師が生徒の家を訪問して学習指導をしているといった地域もあります。

このようにインターネットはおろか教育環境ですら整っていない都市部から離れた地域にはデジタルツールを購入できない家庭も多く存在しています。インドネシアではコロナウィルスが拡大する以前から、都市部とそれ以外の地域の経済的・文化的な格差が問題になっていて、とくに教育の格差については非常に問題視されてきていたのです。

インドネシア教育文化省のコロナウィルスへの取り組み

今回のコロナウィルスの感染拡大にともなって、とくに都市から離れた地域における学校教育が継続不能になるという危機感から、インドネシア教育文化省では、いち早くさまざまな自宅学習への取り組みを始めました。ユネスコと協力して、自宅での学習方法やノウハウを提供してもらいながら、自宅学習の状況をモニタリングしていくことも3月末時点で決定していました。

インドネシア教育文化省では、コロナウィルスの取り組みとして、児童生徒の健康、教職員および保護者の健康と福祉を守るためすべての幼小中高校と高等教育機関に対して、4月3日から登校を禁止し、自宅学習を行うように通達しました。これは日本と違い「強制」です。

また同時に「自宅学習プロジェクト」を発動し、様々な自宅学習のためのプログラムを開始しました。高等教育機関になるとそれぞれ学校のデジタル化の状況が大きく異なるため一律の対策はとらず、できるだけデジタルツールを活用し、登校せずに授業を続けるように伝えています。そして、インターネット環境が整っていない地域のためにはテレビによる自宅学習プログラム番組の放送を開始しました。

インドネシア教育文化省の経済対策・財政支援

一方、財政面での対策もインドネシア政府は以下のように具体的な政策を実行しています。その中でもインドネシア教育文化省は、コロナウィルス対策として、児童生徒保護者に向けたコロナウィルスの対応教育費として600億ルピア、大学病院などの増床に2,500億ルピア、PCR検査費に900億ルピア、追跡調査検査費に50億ルピアなど、合計4,050億ルピア(約304億円)の予算をすでに3月末の段階で決定しています。

さらに、すでに決定していた幼小中高校に対する「設備管理費」をすぐに各学校に配布し、学校の状況に合わせてデジタルツールの購入やデータ通信料、児童生徒の自宅学習などの補助に充てられるようにしました。

インドネシア教育文化省のコロナウィルスへの具体的な取り組み

1.テレビによる学習プログラム番組放送

4月9日(2020年)よりインドネシア国営テレビ局のTVRIと協力し、地上波テレビによる学習プログラム番組を放送しています。通常はニュースを中心とした番組構成だったものを改編して「小中高の教育プログラム番組」をインドネシア全土に向けて放送しています。

6月末までを当初予定していた「幼小中高の教育プログラム番組」ですが、6月16日のビデオ会議で、すべての学校が対面授業を始めるまでの間、放送を延長することが決まりました。

インドネシアのインターネット普及率は全国平均で約40%です。日本のインターネット普及率が90%以上もあるのに比べると圧倒的に低くオンライン授業がすべての国民にできるような状況にはありません。

しかしテレビの普及率は、日本の96.7%に対してインドネシアも約85%と、ほとんどの家庭にテレビはある状況です。ちなみにインドネシアの携帯電話の普及率は119.34%で、日本の141.41%に迫っています。携帯電話普及率は近年ではめざましいものですが、先述したように、携帯電話を保有していても電波がなかなか届かない地域に住む児童生徒もいます。

そこでインドネシア政府教育文化省は、インドネシア全土の児童生徒の自宅学習を支援するためにはインターネットより圧倒的に普及しているテレビを活用することにしました。こちらについては後段で詳しくご紹介します。

2.オンライン自宅学習サイトの開設

インドネシア教育文化省は、オンライン学習のための「ルマ・ブラジャル(Rumah Belajar)」というサイトを自宅学習する児童生徒向けに立ち上げました。

動画コンテンツを主としているこのオンラン学習サイトは4つのカテゴリーに分かれています。「クラスデジタル」という学年ごとの授業ビデオ、「スンブル ブラジャル」という学習の元となるデータや研究結果、「バンク ソアル」というテスト集、「ラボラトリウム・マヤ」という少し高度な研究や実験の動画などを掲載しています。これらのコンテンツはすべて無料で視聴、ダウンロードできるようになっています。

→ルマ・ブラジャル:https://belajar.kemdikbud.go.id/

3.スマホ学習アプリの無償提供

携帯電話普及率が高いインドネシアでは、数年前からスマホ用学習アプリが児童学生の自宅学習のための「オンライン塾」として定着しつつあります。そこで、インドネシア教育文化省ではこのコロナ状況下において児童生徒の学習を維持していくために、7つのスマホ用学習アプリケーションと協力し、3月16日からこれらのアプリをインドネシアのすべての児童生徒が無料で使えるようにしています。

インドネシア教育文化省と協力している7つのスマホ用学習アプリは、ルアン・グル(Ruang Guru)、ゼニウス(Zenius)、グーグル・サイト・フォー・エデュケイション(Google Suite for Education)、マイクロソフトオフィス365・フォーエデュケイション (Microsoft Office 365 for Education)、クイッパー (Quipper)、スコラム (Sekolahmu)、クラス・ピンタール (Kelas Pintar)です。これらのスマホ用学習アプリは、小学校、中学校、高校の各学年ごとに教材が分かれていて、科目も算数(数学)、国語、英語、物理、化学、地理、歴史、社会が揃っています。

上記それぞれの一つのテーマが3分~15分で構成されていて、教員はこれらのアプリから必要な科目と項目を拾って、オンライン授業に導入したり、児童生徒はこの動画やサイトを観ながら自分自身で自宅で学習することができます。また、動画途中で設問があって回答しないと次に進めなかったり、生徒からの質問に対する返答をアプリ内で対応したりといった機能もありますし、視聴後の各テーマごとの確認テストや模擬試験なども備わっています。

4.スマホデータ通信料の補助金支給

インドネシア教育文化省では、インターネット学習プログラムを使う際に発生するスマホのデータ通信料の補助金を学生個人に支給しています。

補助金の金額はそれぞれの学校や地域によって変わってきますが、バンドン周辺では毎月70,000~100,000ルピア(日本円530~755円)が各学生個人にスマホデータ通信料の補助金として支給されています。

5.臨時教職員への給与支払い

インドネシア教育文化省では、学校が休校中の臨時教職員に対する給料の最大50%を支給しています。

インドネシアでは、慢性的な教員不足を補うために臨時教員の採用を進めていましたが、学校が休校になり臨時教員の仕事がなくなりました。休校中の臨時教職員への給与は学校からは支払われないため、インドネシア教育文化省では、学校再開時には必ず必要になる臨時教職員の確保のために、休校中の臨時教職員の給与の最大50%を支給しています。

テレビによる自宅学習プログラム番組の放送

テレビ放送による自宅学習プログラムは、スマホ用学習プログラムをテレビ版にしたものや、低学年向けの教育アニメ番組、文化的価値の高い映画、保護者や地域の先生方に向けた教育方法、コロナ期間中のストレス解消法、コロナウィルスの対応策などです。

自宅学習プログラムでは週4本の映画があります。土曜日と日曜日は特別プログラムで、インドネシア全土の子供たちの生活や取り組みをまとめた番組や各界の専門家や教授などのトークショー、書籍や作品についての討論会など内容もさまざまです。

また、すべての世代の向けてコロナウィルスに対応するためのソーシャルディスタンスやマスクの着用などの行動基準や方法なども番組途中に頻繁に放送されます。放送番組予定表は、テレビ番組放送中やツイッターなどを通じてインドネシア教育文化省が公表しています。

一例ですが、学習プログラムの6月12日(金)の番組は以下のようになっています。

08:00-08:30 ジャラン・セサミ(プトゥリのペットは…)【就学前、小学校低学年向け】*1
08:30-09:00 アイオ先生のおとぎ話(カンチル物語)【小学1年~3年向け】*2
09:00-09:30 大好き数学(最小公倍数と最大公約数)【小学4年~6年向け】
09:30-10:00 生物と環境の相互作用【中学校】
10:00-10:30 自分の興味にあった学科を見つけるコツ【高等学校】
10:30-11:00 インドネシアの子育て(家庭教育シリーズ)【保護者・教師向け】
21:30-23:30 インドネシアの映画

注)*1:セサミストリートのインドネシア版
*2:インドネシアで一番有名な寓話で、ずるがしこい小鹿の物語


インドネシアのテレビによる自宅学習プログラムの評価

インドネシア教育文化省では、テレビによる自宅学習プログラム番組放送の評価のための調査を番組開始から約1ヶ月が経った時点でユニセフと共同で実施しました。(5月14日発表)

調査では、「この地上波テレビによる自宅学習プログラムを知っているか」という質問に対して、生徒、教師、保護者の99%が「知っている」と答えています。この調査は都市部とそれ以外の地域に分けて行われ、都市部では78.6%が視聴し、それ以外の地域では52%が視聴しているという結果が得られました。

プログラムの内容の満足度は10点満点中で、全学生平均が7.8ポイント、保護者平均が8.2ポイントでした。また、都市部の教師の満足度が7.5ポイントで、それ以外の地域の教師の満足度は7.0ポイントでした。

インドネシア教育文化省では、さらに自宅学習プログラムについて地方の放送局との連携し放送エリアを増やしたり、テレビを持っていない家庭向けにラジオ番組での放送などを検討しています。

インドネシア教育文化省のコメント

インドネシア教育文化省は4月13日のビデオ会議において、地上波テレビによる教育プログラムの放映について以下のようにコメントしています。

インドネシア教育文化省のナディエム・マカリム大臣は、「インドネシア教育文化省では、オンライン自宅学習できる設備を持っている学生には、オンライン学習ソフトを提供する会社などと協力し、自宅学習アプリを無償化して援助します。インターネットアクセスができない地域に住む学生や資金不足により通信機器や通信料金等の購入が難しい学生、あるいは教育プラットホームの使用が困難な学校や、デジタルツールを保有していない学校が数多くあることは認識しています。」とビデオ会議にて伝えました。

続けて「インドネシア教育文化省としては、コロナウィルスの拡大防止による学校閉鎖という非常に厳しい状況の期間において、デジタルツールによる自宅学習が困難な児童生徒のために、テレビというメディアを通じて、自宅学習プログラムを公開します。テレビというメディアは、インターネットアクセスの制限や経済的制限がある地域と社会に向けて自宅学習プログラムのサービスを届けることができます。私ども(インドネシア教育文化省)は、インドネシア国営放送局であるTVRIの協力により地上波テレビによる無料放送を、インドネシアの広いエリアに届けることによって、学生や保護者、先生たちにとって自宅学習の助けとなるだろう。」と発言しています。

また、インドネシア教育文化省のヒルマル・ファリド(Hilmar Farid)文化局長は、「付け加えさせてもらうが、実際に非対面でできることははすべてやります。地上波テレビも含め、オンラインでできることすべてです。品質の高い教育コンテンツ素材をできる限り早く集め、編成していきます。数週間後には、新しい教育プログラムのウェブサイトを投入することになるでしょう。この状況下でできる限りのことを速くやる事が我々の責務だ。」とコメントしています。

まとめ

日本と同様にコロナウィルスにより休校となったインドネシアにおいて、児童生徒の教育格差をなくすための対策として、オンライン学習とテレビ学習の取り組みを紹介しました。

インドネシアには日本の約30倍もの児童生徒数が学校で学んでいますが、都市部から離れた場所ではインターネット環境が整っていない地域があり、コロナ対策による休校で、オンライン授業が受けられず、教育格差が広がってしまうという危機感が生まれました。

そこでインドネシア教育文化省では、インドネシアの全学校への休校指示と同時に「自宅学習プロジェクト」を発動し、さまざまな支援を行っています。

「自宅学習プロジェクト」には、テレビによる学習プログラム番組の放送、オンライン自宅学習サイトの開設、スマホ学習アプリの無償提供、スマホデータ通信料の補助金支給、臨時教職員への給与補助まであり、インドネシアの国としての児童生徒の教育に対する真剣さがうかがえます。

とくに自宅学習プロジェクトのメインである、テレビによる自宅学習プログラム番組では、スマホ学習用授業のテレビ版や、セサミストリートのインドネシア版などの教育アニメ番組、文化的な価値の高い映画、保護者や教員向けの番組などを毎日放送しています。土曜日と日曜日には、インドネシアの子供たちの生活をまとめた番組、専門家によるトークショー、書籍などのテーマに沿った討論会などを放送するという充実した内容です。

テレビによる自宅学習プログラムへの評価をユネスコと共同で行っており、その結果からわかるように地方だけでなく、都市部の児童生徒や教職員からも高い評価を得ています。

また、インドネシア政府・インドネシア教育文化省のナディエム大臣は「オンライン環境がある学生には自宅学習アプリの無償化」「オンライン環境がない学生にはテレビによる自宅学習プログラムを無料で届ける」ということを明言しています。

日本と比べてインターネット環境が整っていないインドネシアにおいては、さまざまなオンライン学習プログラムの充実はもちろん、テレビ放送による自宅学習プログラムはかなり評価も高く、このコロナ状況下での児童や生徒の自宅学習の要になっています。

コロナウィルスによる休校措置によりインドネシア政府・インドネシア教育文化省は、テレビ放送を含む「自宅学習プロジェクト」の対策によって、児童や生徒および教職員に対する幅広い支援を行い、地域格差が教育格差につながってしまうことを阻止できていると言えるでしょう。

以上「【コロナ対策】インドネシアの教育格差をなくすためのオンライン学習とテレビ学習」をお伝えしました。

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