インドネシア全土のすべての高等学校(公立・私立・職業教育高校を含む)の管理とその教職員の育成を管轄している、インドネシア政府教育文化省のサンティ(Santi Ambarrukmi)教職員育成局長に、インドネシア学生の日本留学の支援についてインタビューをしました。
インドネシア政府教育文化省の日本留学支援策の具体的なものとしては、インドネシア政府教育文化省のナディム・マカリム新大臣が提唱した「教育改革」における日本留学支援の政策の内容や日本留学に関わる奨学金プログラムについて、さらには日本への短期留学の支援体制や日本の学校に希望することについてもインタビューをしました。
インドネシアから優秀な留学生を受け入れたいと思っている学校関係者にとっては非常に有益な情報になりますので、ぜひ最後までご覧ください。
インドネシア教育文化省サンティ教職員育成局長のインタビュー
(1番左がサンティ教職員育成局長)
インドネシア教育文化省サンティ教職員育成局長の基本情報
名前:サンティ アンバルクミ(Santi Ambarrukmi)
敬称:教育学博士
宗教:イスラム教
部署:インドネシア教育文化省 職業教育・教職員育成局
役職:局長
出身:スラバヤ
【質問1】日本への留学希望者は今後増えますか?
ナディム・マカリム新大臣の提唱による「教育改革(Merdeka Belajar)」により、日本への留学希望者は増えると考えています。この「教育改革」では、大学在学中に最大3セメスターの期間を大学外での活動ができるようになりました。当然、海外への短期留学も増えるかと思います。今までは海外留学といえばアメリカ、オーストラリア、英国、ドイツを選ぶ学生がほとんどでした。しかし、留学先は学生自身に選ぶ権利がありますので、日本への短期留学を選ぶ学生も増えるでしょう。
また、高校生においては全国統一試験(Ujian Nasional)の科目によらず、生徒自身が日本語クラスなど比較的自由にカリキュラムを選ぶことができるので、日本留学をめざす学生が増えるでしょう。現在では、高校卒業後の進路指導については、教育文化省ではなく各地方自治体が管理していますが、今後は各地方自治体などと協力しながら、日本留学を増やす政策を打ち出していきたいと思っています。
【質問2】日本留学を支援する奨学金プログラムはありますか?
インドネシア学生の日本留学を支援するプログラムとしては、財務省管轄の教育資金運用機関(Lembaga Pengelola Dana Pendidikan:LPDP)の奨学金プログラムがあります。大学院の修士や博士課程に進学するためのプログラムで、レギュラー、アフィルマシ、東インドネシアの3つのプログラムがあり、進学できる大学がリストアップされています。例えば、東京大学、広島大学、慶応大学、早稲田大学などがあります。このリストに掲載されている大学は、世界の大学ランキングだけではなく、政府の方針や教育資金運用機関の独自基準で選択されています。
・日本留学レギュラープログラム(PT Luar Negeri: Perguruan Tinggi Tujuan LPDP Program Beasiswa Reguler)
:https://www.lpdp.kemenkeu.go.id/wp-content/uploads/2019/05/Daftar-Perguruan-Tinggi-Tujuan-Luar-Negeri-Beasiswa-Reguler-2019-20-Mei-2019.pdf
・日本留学アフィルマシプログラム(Perguruan Tinggi Tujuan Luar Negeri Magister dan Doktoral Beasiswa Afirmasi)
:https://www.lpdp.kemenkeu.go.id/wp-content/uploads/2019/05/Daftar-Perguruan-Tinggi-Tujuan-Luar-Negeri-Beasiswa-Afirmasi-2019-10-Mei-2019.pdf
・日本留学 東インドネシアプログラム(Perguruan Tinggi Tujuan Luar Negeri Magister dan Doktoral Beasiswa Indonesia Timur)
:https://www.lpdp.kemenkeu.go.id/wp-content/uploads/2019/05/Daftar-Perguruan-Tinggi-Tujuan-Luar-Negeri-Beasiswa-Indonesia-Timur-2019-10-Mei-2019.pdf
【質問3】日本留学支援の政策はありますか?
当教職員育成局としての日本留学支援の政策としては3つあります。
一つめは、学校の先生方の海外短期研修です。毎年、インドネシア国内の教育の質を高めるために先生方のコンテストがあり、優秀な先生方には海外への短期研修を実施して、さらに知見を深めていけるよう政府としても取り組みをしています。前回は、島田さんにお世話になりましたが、職業高校の農業部門の先生方の日本への短期研修を実施しました。このような先生方の海外短期研修を実施することで、先生方ご自身の世界観も広がりますし、ご協力いただいた日本の大学や機関にとってもインドネシアとの協力関係を構築していくこともできます。日本から帰国した先生方は、生徒に日本のすばらしさや大学の様子を伝えることになるので、これから多くの学生たちが日本留学を目指すことになると思っています。
→インドネシア教育文化省人事局メンバーの宮城県研修をアテンドしました(2019年9月・10月)
二つめは、日本語クラスを開講できる日本語教師の強化です。今後は高校段階でも日本語を選択する学生が増えてきますので、日本語を教えられる先生の採用や教育、配置などについても取り組む予定です。
三つめは、インドネシア学生の日本への留学を支援する「日本留学ガイドブック」の発刊です。現在、インドネシア国内では日本へ留学をしたい学生にとっては、あまりにも日本の学校情報が限られていますし、相談できるところすらありませんからね。この留学ガイドブック(JAPAN STUDY PASS)については、インドネシア全土の優秀な高校や大学へ配布、さらにはこのガイドブックを使って、直接先生方から学生へ進路指導ができるように先生方や地方自治体の教育担当者に各自配布していきます。
【質問4】日本との協定校の支援はありますか?
現在、海外の高校や大学との協定校については、各地域の自治体に移管しています。それぞれの地方自治体の教育部門が地元の高校と海外の学校との協定を進めています。また、それぞれの高校や大学が独自のつながりを生かして協定を締結しています。
インドネシアの「教育改革」の中では、大学生の短期留学など、大学外での活動ができますので、インドネシア教育文化省としても協定校の締結に向けて支援をしていきます。日本の大学からの依頼があれば積極的に協定締結に向けてかかわっていきたいと考えています。
日本の大学とインドネシアの高校との協定については、教育文化省はあまり関与しないのですが、十分な調査と友好的な契約を締結して、協力体制を創ってほしいと思っています。インドネシアの高校には、海外への進学を奨めている高校がたくさんあります。その多くは私立のキリスト教系の学校ですので、日本の学校側も受け入れやすいかと思います。
また、今まで二国間レベルでの協定としては、中国と韓国との協定しかありませんでしたので、日本との協力関係を強化していくつもりです。それは、日本の素晴らしい文化や規律正しさなどを取り入れて、新しい時代に向けて質の高い教育をしていきたいと考えているからです。実は、私の娘も日本に留学したいと考えているところです。
【質問5】お嬢さんが日本留学を希望する理由は何ですか?
私の娘のナディファ(Nadifa)は日本のアニメが大好きなので、大学は日本で勉強したいと言っています。でも、まずは日本語を勉強しなければいけませんよね。ですから、今はYoutubeで日本語の勉強をしているみたいです。
【質問6】お嬢さんが日本へ留学する時に問題は何かありましたか?
まず学校を探すのに苦労しています。私も日本語は分からないので、どの学校が娘にとっていいのかがまったく分かりません。日本語学校でもそうですね。日本学生支援機構(JASSO)のホームページを見ましたが、なかなかポイントがつかめません。
もう一つは、奨学金のことですね。これもJASSOを見ましたが、たくさんありますし、どれがマッチするのか正直分かりません。また、住む場所とか環境のことがよく分かりません。娘はまだ日本に行ったことはないので、テレビやインターネットを通じてしか情報はありません。
【質問7】日本の学校に依頼したいことはありますか?
日本の学校には、イスラム教への理解、日本語、授業内容、奨学金、生活サポートという5つの事をお願いしたいと思います。
一つめは、インドネシアの78%を占めているイスラム教信者への理解です。体表的なものでは「ハラル食品」「お祈りの時間と場所」などがありますし、断食やイスラム教の祭日もあります。日本でイスラム教に対する理解が深まれば、さらに多くのインドネシア学生が日本留学を目指すと考えています。ハラル食品が買える、ハラルのレストランがある、お祈り場所が用意されている、お祈りの時間を考慮してもらう、などですね。
2つめは日本語です。私の娘の時でもそうですが、学校案内のウェブサイトのほとんどが日本語で書かれているのでよくわかりません。一部では英語の表記もありますが、学生が英語が読めたとしても、英語がわからない両親もインドネシアには多くいます。できればインドネシア語の案内があれば両親も理解できて安心できるかと思います。そして、できれば英語のプログラムをもっと増やしてほしいと思います。インドネシアには、英語の授業があるクラスやインターナショナルスクールもあるので、英語のネイティブレベルの学生も多くいます。
3つめは授業内容です。日本語学校や大学も含めて、どんな授業内容なのかがわかりにくくなっています。とくに大学の場合には、かなり専門性が高くなるので、しっかりと自分の学びたいこととマッチしているのかが重要になります。それを調べるだけでもかなり時間がかかってしまいます。これもインドネシア語で書かれていると両親としても納得できます。
4つめは奨学金についてです。奨学金は非常にたくさんあって、どれが良いのか、どんな条件なのか、本当にもらえるのか、などがよく分かりません。留学資金が十分にある家庭でも奨学金をもらうことで、学生のモチベーションが上がります。さらに学校選択や奨学金などについて個別に相談できるところが少なく、地方の学生にとっては非常に難しいかと思います。
5つめは日本での生活への配慮です。日本の物価はインドネシアと比べて高いし、住む場所など生活環境、交通手段なども外国人にとってはが分かりにくいです。もしできれば、一定期間は寮などに入って、ある程度慣れてきたら学生の好きな場所に移るという方が両親としても安心できます。
【島田】ご協力ありがとうございます。今後ともよろしくお願いします
こちらこそ、ありがとうございました。
まとめ
インドネシア教育文化省のサンティ教職員育成局長に、インドネシア政府教育文化省のインドネシア学生日本留学の支援政策についてインタビューをしました。
サンティ教職員育成局長は、インドネシア全土のすべての高等学校の管理とその教職員の育成を管轄している部署の局長である立場から、新大臣提唱の「教育改革」における日本留学支援の政策、奨学金プログラム、日本への短期留学や協定校支援について具体的にお話いただきました。
また、たまたまお嬢さんが日本留学を希望していて、いろいろとご自身で日本の学校のことを調べている最中で、インドネシアからの留学希望者として日本の学校への要望も具体的に聞くことができました。
インドネシアからの留学生を受け入れる日本の学校としては、奨学金プログラムや短期留学の受け入れ、インドネシアの先生方との交流や留学ガイドブックなどについても日本の学校を知ってもらう良い機会になるかと思います。
以上、「インドネシア教育文化省サンティ教職員育成局長インタビュー【日本留学支援について】」でした。