インドネシア教育文化省のジャカルタ本省人事部のアンディ(Andi Arysanto)氏に、インドネシア学生の日本留学についてインタビューしました。
アンディ氏は、去年2019年の9月から10月にかけて、インドネシア教育文化省内の人事研修のために、東北大学をメインに宮城県庁や多賀城市、気仙沼市などを訪問しました。日本の大学校の現状を視察し、インドネシア教育文化省内の人事に活かしていこうという試みを実行しているキーマンです。
→ インドネシア教育文化省人事局メンバーの宮城県研修をアテンドしました(2019年9月・10月)
そのアンディ氏に、インドネシア教育文化省としてインドネシア人学生の日本留学生は増えていくのか? また、日本の大学を訪れたときの印象や今後日本へインドネシア人留学生を今後増やす方法、さらにはインドネシア教育文化省としてのインドネシア学生の日本留学方針についても語ってもらいました。
インドネシアから優秀な留学生を増やしたいと思っている大学関係者にとって、非常に有益な情報が得られる内容になっています。
また、以前の記事にてインドネシア政府教育文化省のサンティ教職員育成局長の日本留学支援についてのインタビューも掲載しています。
→ インドネシア教育文化省サンティ教職員育成局長インタビュー【日本留学支援について】
インドネシア教育文化省アンディ氏(Andi)氏のインタビュー
インドネシア教育文化省アンディ氏の基本情報
名前:アンディ・アルサント(Andi Arysanto)
学歴:パクアン大学・経済学部(Universitas Pakuan:ボゴール)
敬称:経済学士
部署:インドネシア教育文化省・人事部(プログラム・予算編成係)
宗教:イスラム教
出身:パレンバン(南スマトラ州)
【質問1】インドネシア人学生の日本留学についてどう思われますか?
今後はインドネシアからの日本留学を希望する学生は増えると思っています。ご存知かもしれませんが、いまインドネシアでは、「JAPANブーム」と言ってもいいくらいに日本への関心が高まっています。TOYOTAやHONDAなどの日本のメーカーの自動車やバイクが街中を埋め尽くしているのははもちろんですが、最近では日系のレストランが増えたり、JKT48のような日本のエンターテイメント文化もたくさん入ってきています。さらに若い人たちの間では有名なのですが、日本留学を果たした有名ユーチューバーのジェロメ(Jerome)さんという人は、出版した本がベストセラーになったり、日本留学を目指す学生たちのヒーローのような存在になっています。
【質問2】今後インドネシアからの日本留学希望者は増える理由は何ですか?
インドネシア学生の日本留学が増える理由は大きくわけて三つです。
一つめは、日本の教育レベルが高いことがインドネシアの学生にとって魅力の一つになっていることです。インドネシアでは予算の関係などで達成できなかった最新の研究などがたくさんあるのが正直な現状です。それを補完できるのが日本の大学と思っています。さらには、将来インドネシアに帰国した際に非常に役立つ知識を身につけることができるのが日本ではないかと思っています。昨年日本を訪れて実際に見学したのですが、地震や津波の災害からの復興の様子や復興政策などは、同じ災害大国である我々インドネシアにとっても非常に役立つ知見ではないかと思われます。
二つめは、「大学改革」の方針が施行され、インドネシア学生の日本への留学の可能性が広がりました。大学改革という政府方針において、インドネシアの大学生は、半年から1年の間、通っている大学外での活動がほぼ義務化されました。これには日本留学を含む海外留学の選択肢が広がりました。大学外での活動としては、海外短期留学ばかりでなく、企業や初等教育、地方自治体などへのインターンシップもあります。この活動については学生本人が自主的に選ぶことができるので、日本留学を選ぶ学生がかなりの数いると思います。もちろんこの「大学改革」には資金的な援助もインドネシア政府よりありますので、日本留学へのハードルはかなり下がりました。
三つめは、日本への留学は、学生自身の誇りとなるからです。個人的な意見かもしれませんが、日本へ留学をすることによって、将来のキャリアにおいて有利になります。多くのインドネシア人は、小さな頃から日本アニメやマンガを見て育っていますので、私自身もそうですが「いつかは日本に行きたい」と多くの人が思っています。観光で日本に行くのではなく、日本へ留学という目的で行くということは、インドネシアではかなりステータスが高いことになるのです。もちろんインドネシア国内でのキャリア評価に大きなアドバンテージになります。
【質問3】アンディさんにとって日本留学についてはどのように思っていますか?
インドネシア人にとって日本留学は良いことですし、もっと積極的に増やすべきだと私は思っています。
インドネシアは先進国と肩を並べるられるように進歩したいとジョコウィ大統領も願っています。その中で教育が一番カギになるので、インドネシアの若手起業家のナディエムさんという人をインドネシア教育文化省大臣にしました。今までは海外留学といえば、アメリカやオーストラリア、シンガポールなどが多かったのですが、インドネシア政府としては、日本留学をきっかけにして、多くの事を学ぶべきだと思っています。
日本は、地震や津波、火山などの防災・減災について、インドネシアと多くの類似点があり、防災技術や防災の基準などは非常に勉強になることばかりです。最新の技術をもった先進国でありながら、規律正しさや秩序を守る文化はインドネシア人が手本にすべきところです。さらには、アニメやデジタルコンテンツなどの芸術文化と最新技術の応用やSDGsなどの社会構造改革などについても数多く学ぶべきことがあります。具体的な施策としてインドネシアでは、日本の大学間協定を推進して、交換留学を増やす方向で進んでいます。
しかし、まだまだ障害もたくさんあります。日本語という言語の問題、奨学金などの予算の問題、宗教的な問題、大学などの情報不足の問題などです。
インドネシアの一部の中等教育の学校では日本語クラスがありますが、中等教育での第二言語の選択肢に、英語だけではなく日本語も加えるべきと個人的には思っています。留学促進の予算に関しては、非常に優秀な高校生にはインドネシアの国費で留学できるような制度を検討する余地があると思います。
また、宗教的な問題については非常にセンシティブで、イスラム教徒が大半を占めるインドネシア人にとっては、日本は非常に生活しづらい国です。日本でもっとイスラム教への理解が深まってほしいと思っています。お祈り場所やハラール食品、さらにはお祈り時間の配慮などがあればと思っています。
最後に日本の大学や学校の情報不足の問題については、現在インターネットにのみ頼らざるを得ない状況のですが、もっとインドネシアの地方都市にも正確な情報がインドネシア語で発信されるようになることを希望しています。インドネシア学生本人だけでなくその両親もそのほうが日本留学について安心できます。日本留学を許容する環境も広がるかと思います。
【質問4】昨年、研修にて来日されてどんな印象でしたか?
私が日本を訪問して感じたことは、三つほどあります。
一つめは、日本は本当にきれいで清潔だと思いました。整備された、きれいで美しい日本を今でも思い出します。とくに記憶に残っているものは、日本に滞在していたあいだ、一度もたばこの吸い殻が落ちているのを見なかったことです。インドネシアでは、どこに行ってもたばこの吸い殻が道に落ちています。日本はさすが綺麗ですね。
二つめは、日本に住んている人は、規則正しく規律に則っているということです。これも同じく、私が日本に滞在しているあいだ、一度もお目にかかることはありませんでした。とくに交通ルールの順守は素晴らしいですね。信号が変わるまで横断歩道を渡るのを待ったり、渡っているときも他の人の邪魔にならないように気を付けていたり、きちんとゼブラゾーン内をはみ出さずに渡ったりする姿は、日本人からすれば当たり前なのかもしれませんが、インドネシア人からするとそれはびっくりするレベルです。
三つめは、日本人は仕事に気迫を感じます。どんな仕事であってもやる気を感じる場面があり、自分の仕事をさらに良くしようという気迫を感じます。そしてさらに、日本人は時間を無駄にしていませんね。すべてがオンタイムで進められるように計画を立てていて、時間通りに実行できるように努力しているように感じられます。やはり時間を守ることに関しては、インドネシア人が学ぶべき大事なことです。
【質問5】日本の大学についてどのように感じましたか?
私が日本の大学を訪問して感じたことはいくつかあります。これは私が東北大学に訪問した時の感想です。
一つめは、日本の大学は清潔で、キャンパス自体が広いと感じました。東北大学の学食にはハラル料理も準備されていて、お祈りの部屋もありました。こういった設備環境は、インドネシア人ムスリムにとっては大変うれしいものですし、勉強に集中できる環境が整っているなと思いました。
二つめは、東北大学は学生の研究をサポートする体制が充実していると思いました。学生の研究活動に様々な支援があることによって、学生はより研究に没頭でき、さらなる発展や展開を遂げることができるでしょう。
三つめは、私たちのような奨学金を支給する側にとって、東北大学の管理体制(教育体制)はしっかりとしたもので、非常に評価できる体制だと思いました。奨学金を受けた学生は1年ごとに進学度や学科のマスター度をチェックするテストを備えてあります。奨学金を受け取るだけでなく、最後までその成果を発揮して勉学にいそしむための体制が備えてあります。このシステムは、日本に留学している学生だけでなく、これから日本に留学する学生にとっても、勉強を続けていくるためのモチベーションとなると思っています。非常に良いシステムを導入していると思いました。
【質問6】インドネシアからの留学生を増やすために日本の大学は何をすればよいと思いますか?
インドネシア留学生を増やすために日本の大学担当者ができることはいくつかあります。
一つは、奨学金の募集を増やすことです。これは資金がある学校などに限られてしまいますが、インドネシア人学生にとって、奨学金が日本留学の一番のモチベーションになります。もし、奨学金プログラムがすでにあるとしたら、もっと積極的にインドネシアの学生に届くようなプロモーションを行うべきだと思います。
二つめは、ソーシャルメディアの活用です。インドネシアの学生たちはソーシャルメディアを好んで使っています。フェイスブック、ツイッター、ユーチューブ、インスタグラムなどがありますが、先ほどの奨学金プログラムもソーシャルメディアを使ったプロモーションが良いかと思います。
三つめは、もし可能であれば、インドネシア政府の公式アカウント上でのプロモーションもいいかもしれません。私に相談していただいてもかまいません。アメリカやオーストラリアなどは、すでに留学専門のエージェントがいくつかありますが、日本留学専用のエージェントでのプロモーションも有効でしょう。
四つ目は、すでに日本に留学しているインドネシア学生と連携して、日本の大学のプロモーションや奨学金募集を促進することもひとつのアイディアだと思います。例えば、先述した早稲田大学で学んでいるインドネシア人ユーチューバーのジェロメさんなどを起用したプロモーションです。こういったインフルエンサーとの協力で大学のプロモーションを行うもの一つの方法だと思います。
【質問7】「大学改革」で教育文化省として日本留学の方針・指針などはありますか?
2019年にインドネシア教育文化省の新大臣から「教育改革」の指針が公開されています。その中に「大学改革」があるのですが、4年間の大学在学中に大学外での活動を選択でき、海外短期留学や企業研修などがあります。
インドネシア教育文化省では、インドネシアの各大学から海外の大学との協定やパートナーシップについて積極的に支援してます。もちろん大学間の協定の認可も行っていますし、短期留学も推進しています。ただし、今年度についてはコロナウィルスの影響により、交換留学は公式な解除宣言があるまで中止になっています。
そこで、インドネシアから日本への留学生を増やすためには、まずインドネシアの大学との協定を締結を進めていけばよいかと思います。現在は、実際に会ってということはできませんが、ビデオ会議でも話を進めることはできるかと思います。インドネシアの大学にとっても、日本留学できることは優秀な学生を集めることにもつながります。そして交換留学を実施することで、インドネシア学生は日本への興味が沸き、短期留学ではなく長期的な留学へとつながると思います。
【島田】本当に貴重な意見をいただきまして、ありがとうございました。
まとめ
インドネシア教育文化省ジャカルタ本省の人事部アンディ(Andi Arysanto)氏に、インドネシア学生の日本留学についてのインタビューをしました。
アンディ氏は、インドネシア教育文化省の人事部にて人事プログラムと予算編成の担当をされていて、2019年には宮城県の東北大学を訪問し、日本の大学の現状を実際に視察されています。また、インドネシア教育文化省において重要なポジションを担っている人物です。
アンディ氏によると、今後インドネシア人学生の日本への留学が増えていく理由としては、日本が高い教育レベルを誇っている点、インドネシア政府の支援増大、日本に対する学生のあこがれやキャリアステータスの4点を挙げています。また、インドネシアと日本は災害大国という点で多くの学ぶべき事があるため、日本留学をもっと積極的に増やすべきと考えておられます。しかし反面で、日本語習得の問題や奨学金の拡充、そして宗教的慣習の問題がまだまだ存在しているともおっしゃっています。
また、インドネシアからの留学生を増やすため日本の大学担当者が何をすればよいか?という問いについては、「奨学金の募集を増やすこと」「ソーシャルメディアを活用した募集活動」などを提案されていますが、「インドネシア政府公式アカウントへの掲載」など一歩踏み込んだ具体的な提案もいただいています。
さらに現在、インドネシア政府教育文化省は、「大学改革」の方針の一環で、日本とインドネシアの大学間でのパートナーシップを推進しているとのことで、まずは交換留学から始めて興味を高め、長期留学につなげていけるのではともアドバイスしています。
以上「日本留学について~インドネシア教育文化省インタビュー5【人事部アンディ氏】」をお伝えしました。